1988年生まれ。台湾・台東市出身。沖縄在住。台湾・政治大学テレビ放送学科卒業、東京造形大学大学院映画専攻修了。大学時代からドキュメンタリーの自主制作を開始。短編作品:台湾の出稼ぎタイ人労働者を取材した『五谷王北街から台北へ』(2010)、セルフドキュメンタリー『夜の温度』(2013)、なら国際映画祭とジュネーブ芸術大学のコラボ企画「Grand Voyage」の1つとして『杣人』(2014)を発表。
2013年より植民地時代の台湾から八重山諸島に移住した“越境者”たちとその現在を横断的に描く「狂山之海」シリーズを企画。第一作『海の彼方』(2016)は日本と台湾で一般公開し、大阪アジアン映画祭、台北映画祭ほか、新藤兼人賞「プロデューサー賞」受賞。第二作『緑の牢獄』(2021)は企画段階から注目され、ベルリン国際映画祭、スイス・ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭などに入選し、日本、台湾とフランスでの一般公開を控える。
またプロデューサー活動により、チェコ・イフラヴァ国際ドキュメンタリー映画祭「新鋭プロデューサー2020」に台湾代表として選出。現在、沖縄と台湾を拠点に国際共同製作にも進出、「石垣島ゆがふ国際映画祭」ではプログラムディレクターも務めている。
コメント comments
何もない空間に、確かにある気配を映し撮る撮影者の息遣い
それは、過去や未来の時空を超えて、永遠となる。
老婆の顔に染み付いたシミの跡は、人生の軌跡
河瀨直美 (映画監督)
『緑の牢獄』を観終わってただちに思い出されたのは、溝口健二『山椒大夫』の結末部であった。歴史から追放され、置き去りにされた人たちが、歴史の証人となる。恐るべき緑のなかの、貴重な静寂である。
四方田犬彦 (映画誌・比較文学研究家)
その場所は、「緑の牢獄」と呼ばれた。あまりにも美しい森だが、過酷な作業環境で石炭を掘り、彼らの姿はいかにも哀れであった。そして肉体だけではなく、魂さえも囚われた。
ウェイ・ダーシェン/ 魏德聖 (映画監督)
鬱蒼と茂る森林、果てしなく広がる海原。陽射しが燦々と照りつける美しい秘境に隠されているのは、極東の島々に連なる暗い歴史。最後の証言者が世を去った後、それを記憶し、語り継ぐのはきっと、芸術の使命だと思う。
李琴峰 (作家・翻訳家)
西表に生きた台湾の同胞たち。石炭が光り輝いた時代に生きた彼らは、時代に取り残されたかもしれないが、「台湾」は確かに島に存在した。橋間おばあは、その生き証人。この貴重な記録映像は彼女の魂の声であり、見る者の心に、静かに、重く響き渡る。
一青妙 (作家・役者)
この映画は、過酷な土地の記憶を刻んだ記録であると同時に、「故郷」から切り離された人々の物語でもある。
安田菜津紀 (フォトジャーナリスト)
日本と台湾の中間地帯であり、炭鉱のある西表島で人生の大半を送った台湾出身者、橋間良子さん。流暢な台湾語と、少しどたどしい沖縄なまりの日本語。彼女の言葉は、その間をゆらゆらと行き来する。その不自然さこそ、西表島に取り残された「最後の台湾人」の存在を物語っている。故郷を失い、「緑の牢獄」の囚われ人になった彼女の運命は、幸福や不幸といった言葉では簡単に片付けられない。時代の流れに巻き込まれた漂流者の姿に私たち観客は視線を釘付けにされるはずだ。
野嶋剛 (ジャーナリスト)
小説『波の上のキネマ』で掘り起こした近代史の「闇」に、新たな光が当てられた。『緑の牢獄』。なんと美しくも残酷なタイトルだろうか。「闇」の存在すら忘れ去られようとしている今こそ、我々の目に届くこの「光」は貴重なものだ。
増山実 (小説家)
うつくしい海と、鬱蒼と繁る緑深い森。そのもとで、残酷なまでに剥き出しに照らし出される孤独。沖縄や台湾の温かさ。母性に満ちた老女。家族や隣人との絆。国境を越える愛……そういうものを期待する人々を痛快に裏切る、強烈にうつくしい映画だった。
温又柔 (作家)